VTuberの切り抜き動画を投稿しようと思ったとき、最初に立ちはだかるのが「これは許可されているのか」という問題です。切り抜きのルールは事務所ごとに定められており、内容も一律ではありません。ある事務所で問題なかった運用が、別の事務所では規約違反になることがあります。
特に混乱が多いのが収益化です。「切り抜きは収益化していい」と単純にまとめている情報を見かけますが、3社の原文を読み比べると、書きぶりは明確に違います。明示的に許可している事務所もあれば、「許可することを意味するものではない」とはっきり書いている事務所もあります。
この記事では、にじさんじ(ANYCOLOR)・ホロライブプロダクション(カバー)・ななしいんく(774inc.)の3社について、公開されている二次創作ガイドラインの条文を突き合わせて比較しました。どこが同じで、どこが違うのかを整理します。
- にじさんじ・ホロライブ・ななしいんく3社の切り抜きルール比較表
- 収益化の可否について、3社の書きぶりがどう違うのか
- 事務所が違っても共通している4つのルール
- ゲーム実況の切り抜きで「事務所の許可だけでは足りない」理由
- Content ID登録・アーカイブ公開前の投稿など、見落としやすい落とし穴
※本記事はガイドライン原文を要約・整理したものであり、法的助言ではありません。実際に投稿される際は、必ず各社の原文をご自身でご確認ください。
VTuber切り抜きルール 事務所別比較表
各社の公式ガイドラインから、切り抜き動画に関わる項目を抜き出して並べました。出典はANYCOLOR二次創作ガイドライン、ホロライブプロダクション二次創作ガイドライン、ななしいんく二次創作ガイドラインです。
| 項目 | にじさんじ(ANYCOLOR) | ホロライブ(カバー) | ななしいんく(774inc.) |
|---|---|---|---|
| 事前登録 | 登録フォームへの登録を要請 | 登録フォームへの登録を要請 | 切り抜き専用の登録制度の記載なし |
| 元動画URLの記載 | 概要欄等の分かりやすい箇所に配信・アーカイブURL | 概要欄冒頭にURL+動画タイトル | 概要欄冒頭にURL+動画タイトル |
| アーカイブ公開前の投稿 | 条文上の明示なし | 控えるよう明記 | 控えるよう明記 |
| 収益化 | 「許可することを意味するものではない」と明記 | 条件付きで利用可と明記 | 許諾範囲に含めて明記 |
| メンバー限定・有料配信 | ガイドライン適用対象外。無断転載には法的措置 | 特別な許可がない限り禁止 | 許諾対象から除外 |
| Content ID登録 | 条文上の明示なし | 禁止 | 禁止 |
| 卒業・移籍タレント | 条文上の明示なし | 条文上の明示なし | 詳細な規定あり |
| 最終改定 | 2025年5月23日 | 2025年8月20日 | 2023年2月1日 |
この表だけでも、「切り抜きのルールはどこも同じ」という前提が成立しないことが見て取れます。特に収益化と卒業タレントの扱いは、事務所をまたいで活動する切り抜き投稿者にとって実務上の影響が大きい項目です。
最大の相違点は「収益化」の書きぶり
比較していて最も差が出たのが収益化の扱いです。ここは順を追って見ていきます。
ホロライブ:条件付きで「差し支えない」と明記
カバーの切り抜きガイドラインには「収益化について」という独立した項目があり、ガイドラインの遵守、投稿プラットフォームの利用規約、元動画に含まれる第三者コンテンツ権利者の規約に抵触しないことを前提として、広告収益を含む収益化機能を利用して差し支えないと明記されています。
3社のなかで、収益化について最も踏み込んで肯定している書き方です。
ななしいんく:許諾する行為のリストに収益化が含まれている
774inc.のガイドラインでは、第3条(利用許諾・利用条件)で許諾する行為が列挙されており、そのなかに「広告や投げ銭機能といったプラットフォーム上のシステムを利用して金銭的利益を得ること」が含まれています。
切り抜き専用の追記でも、プラットフォーム規約や第三者権利に抵触しないことを前提に収益化機能の利用は問題ないとされています。許諾条項そのものに書き込まれている点が特徴です。
にじさんじ:「許可することを意味しない」と明記されている
ここが最も注意が必要な部分です。ANYCOLORのガイドライン第1条第3項では、ゲーム実況動画や歌ってみた動画をもとにした切り抜き動画を例に挙げ、同社が独占的に著作権を持たないコンテンツについては、投稿者自身が権利者から許諾を取る必要があると説明しています。
そのうえで、同項には次の趣旨の注記が置かれています。「このことは、当社が独占的に著作権を有するコンテンツの二次創作作品の収益化投稿を許可することを意味するものではない」——つまり、他社権利のない部分についても収益化を明示的に許可してはいない、という立て付けです。
加えて第8条第3項により、同社が必要と判断した場合には個別に利用の中止を求めることがあるとされています。
「にじさんじの切り抜きは収益化禁止」と書かれた情報を見かけることがありますが、原文はそこまで断定していません。正確には「許可するとは書いていない」「中止を求める場合がある」という状態です。この差は小さくないので、原文を必ずご自身で確認してください。
3社に共通している4つのルール
相違点がある一方で、3社が揃って求めている事項もあります。これらは事務所を問わず守るべき最低限のラインだと考えられます。
①元動画のURLを概要欄に明記する
表現に差はあるものの、3社とも元配信のURLを分かる形で示すことを求めています。ホロライブとななしいんくは「概要欄の冒頭」と位置まで指定し、URLに加えて元動画のタイトルの記載も求めている点が共通しています。
②メンバー限定・有料コンテンツの切り抜きは不可
ここは3社とも一致しています。メンバーシップ限定配信、チケット制ライブ、有料イベント配信などは、いずれもガイドラインの適用対象から外れています。
ANYCOLORのガイドラインでは、これらの無断転載を発見した場合に法的措置を含めた厳正な対応を講じると明記されています。3社のなかでも最も強い表現が使われている箇所です。
③第三者コンテンツは別途権利者の確認が必要
切り抜き投稿者が最も見落としやすいのがここです。3社とも、動画内に事務所が権利を持たないコンテンツが含まれる場合は、その権利者の規約に従うよう求めています。
具体的には、ゲーム実況の切り抜きならゲームメーカーの配信ガイドライン、歌ってみたの切り抜きなら楽曲の権利者の規約を、それぞれ別に確認する必要があります。事務所の許可が下りていても、それだけでは足りません。
なお3社とも、第三者の規約の解釈について個別に回答することはない旨を明記しています。判断は投稿者側の責任になります。
④削除依頼には速やかに対応する
3社とも、内容やサムネイルなどの事情により削除を求める場合があるとしています。ANYCOLORは削除理由に関する個別の問い合わせには回答しない旨を、カバーは削除依頼の連絡から7日以内に対応がない場合は削除手続きに進む旨を、それぞれ明記しています。
登録制度の有無で運用が変わる
にじさんじとホロライブは、切り抜きチャンネルの事前登録を求めています。ANYCOLORは切り抜きチャンネル登録用フォームへの登録を、カバーも同様に登録フォームを案内しています。
この登録は、投稿者にとって不利な手続きではありません。カバーのガイドラインには、登録しておくと削除手続きの前に連絡が来るため、プラットフォームのペナルティを回避できるという趣旨が明記されています。
YouTubeで著作権侵害の申し立てを受けるとチャンネル全体に影響が出ます。事前に連絡をもらえる状態にしておくことは、投稿者側のリスク管理として合理的です。登録は済ませておくのが賢明でしょう。
ななしいんくにしかない「卒業・移籍タレント」の規定
今回3社を読み比べて、もっとも独自性が高いと感じたのがこの項目です。774inc.のガイドラインには、卒業したタレントおよび移籍・独立したタレントの切り抜きについて、個別の規定が置かれています。
要点は次の通りです。
- 公開しようとする時点で元動画がすでに非公開になっている場合、新規投稿は控える
- 元動画が非公開になる前に公開済みの切り抜きは、そのまま継続して問題ない
- 移籍・独立以降に新たに公開する切り抜きは、元動画の公開時期にかかわらず移籍先の規定に従う
3つめが特に重要です。「元動画が古いから旧事務所のルールでよい」とはならないという整理になっています。VTuberの移籍が珍しくなくなった現在、この論点を明文化している事務所は貴重です。
他社のガイドラインには同種の規定が見当たらないため、卒業・移籍タレントの切り抜きを扱う場合は、各社に個別に確認するのが安全です。
見落としやすい落とし穴3つ
Content IDへの登録は禁止されている
カバー・774inc.のいずれも、制作した切り抜き動画を自己の著作物として自動識別機能(Content ID等)に登録することを明確に禁止しています。
収益化が認められていることと、Content IDに登録できることは別問題です。切り抜きの権利を自分のものとして主張する行為は、収益化とは切り離して禁止されていると理解してください。
アーカイブ公開前の投稿
カバー・774inc.は、元配信が終了しアーカイブが公開されるより前の切り抜き投稿を控えるよう求めています。
理由は明記されていませんが、規定上、元動画URLを概要欄に記載する義務とセットになっていると読むのが自然です。アーカイブが存在しなければURLを示せないためです。速報性を狙って配信中に投稿する運用は、少なくともこの2社では規約に反します。
AI生成物の扱い(774inc.)
切り抜きそのものではありませんが、774inc.はAI生成イラストについて独自の規定を設けています。ファンアートタグの使用を控えること、投稿時に「#AIイラスト」のハッシュタグを付けることが求められています。
理由も明記されており、ファンアートタグの付いた作品はタレントが配信サムネイルやSNSで引用する可能性があるため、AI生成物と区別する必要がある、というものです。運用上の必要から生まれた具体的なルールであり、他社に先んじた対応だといえます。
ガイドラインは改定される前提で見る
この分野のルールは固定されていません。各社の改定履歴を並べると、その動きの速さが分かります。
| 事務所 | 制定 | 直近の改定 |
|---|---|---|
| にじさんじ(ANYCOLOR) | 2019年6月17日 | 2025年5月23日(制定後6回改定) |
| ななしいんく(774inc.) | 2019年6月1日 | 2023年2月1日(+切り抜き等の追記) |
| ホロライブ(カバー) | — | 2025年8月20日 |
ANYCOLORは制定から6回にわたって改定を重ねています。3社とも「予告なく変更することがある」旨をガイドライン内で明記しており、常に最新版を確認する責任は利用者側にあるという立て付けです。
本記事の内容も、あくまで執筆時点のスナップショットにすぎません。投稿前には必ず原文をご確認ください。
投稿前チェックリスト
3社のガイドラインから、事務所を問わず確認すべき項目を抽出しました。投稿前に一度なぞってみてください。
- □ 該当タレントの所属事務所のガイドライン最新版を読んだか
- □ 切り抜きチャンネルの事前登録は済ませたか(求められている場合)
- □ 概要欄の冒頭に、元動画のURLとタイトルを記載したか
- □ 元配信のアーカイブは公開済みか
- □ メンバー限定・有料配信の内容を含んでいないか
- □ ゲーム・楽曲など第三者の権利物が含まれる場合、その権利者の規約も確認したか
- □ 発言の意図が変わるような編集、刺激的なサムネイルになっていないか
- □ Content ID等への登録をしていないか
- □ 卒業・移籍したタレントの場合、どの事務所の規定が適用されるか確認したか
なお、本記事で扱った3社以外にも、ぶいすぽっ!をはじめ多くの事務所が個別にガイドラインを定めています。扱うタレントの所属先ごとに、必ず公式ページで直接ご確認ください。
この記事のポイント整理
3社の比較から見えたことを並べておきます。
- 収益化の扱いが最も分かれる:ホロライブは明示的に「差し支えない」、ななしいんくは許諾条項に明記、にじさんじは「許可することを意味しない」と明記。同じ扱いではありません
- 3社共通の4項目:元動画URLの明記/有料・メンバー限定コンテンツは不可/第三者権利は別途確認/削除依頼には速やかに対応
- 事前登録は投稿者の防御になる:削除手続き前に連絡が来ることで、プラットフォームのペナルティを避けられます
- ゲーム実況の切り抜きは二重確認が必要:事務所の許可に加えて、ゲームメーカーの配信ガイドラインも見る必要があります
- 卒業・移籍タレントはななしいんくのみ明文化:移籍以降の新規投稿は移籍先の規定に従う、という整理です
- Content ID登録は収益化とは別問題:収益化が認められていても、自己の著作物としての登録は禁止されています
切り抜き文化は、事務所側が明確なルールを示すことで成立してきた側面があります。ルールを守ることは制約ではなく、活動を続けるための前提条件だと捉えるのが実際的でしょう。
※本記事の情報は2026年7月31日時点で公開されているガイドラインにもとづいています。各社のガイドラインは予告なく変更される可能性があります。本記事は原文の要約・整理であり、法的助言ではありません。実際の投稿にあたっては、必ず各社の公式ガイドライン原文をご自身でご確認ください。

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